遺言書が作成され、お持ちになる財産や受遺者に変動がなければよいのですが、年数が経過しますとその財産や受遺者に変動が生じてきます。
相続が起き開封された遺言書でその記載された財産や受遺者の一部が変わっていますと、その部分に関しての遺言の効力が失われます。
財産が変更されますと、変更された変更された後の財産についての遺言がされていなければなりません。財産が処分されますとその受遺者に予定された財産がなくなってしまいます。
また、受遺者が遺言者より先に亡くなりますと、その受遺者の相続人に財産が移るわけでなく、受遺者に遺言された財産が宙に浮いてしまいます。
どんなに完璧に遺言書を作成したつもりでも、財産や受遺者が変動すれば万全な遺言でなくなります。
①財産の変動のよくあるパターン
②受遺者の変動パターン
問題が起きないようにするには、財産の変動があったとき、その都度遺言書を作成し直さないといけません。受遺者が亡くなってもその相続人に受け継がせるつもりであれば、「受遺者○○が亡くなった場合には△△に」と記す方法もあります。
遺言書の内容が完全であっても適正でないことがあります。
というのも、遺言書が本人の意思に基づかず、他の者によって作成されたり、他の者の意志に誘導されて作成されたりすることがあるからです
最近では、遺言書の真偽について争われた事件として、一澤帆布工業㈱の事業承継に絡む事件が有名です。
先代の信夫氏が亡くなり、社長であった三男の信三郎氏夫妻に対して会社の持株の3分の2を相続させる旨の自筆の遺言書が開封されたあと、銀行勤めをしていた長男信太郎氏から、別の遺言書(長男信太郎氏に持株の大半を相続させる内容)が提出されました。
遺言書に書かれた内容が重複するときは後に書かれた遺言書が有効とされます。三男信三郎氏が長男の提出した遺言書の無効を訴えて訴訟となり高裁までいきますが、長男信太郎氏が提出した遺言書を「偽物であるとする十分な証拠はない」として、三男信三郎氏の訴えは退けられました。
改めて信三郎氏の奥様が長男の提出した遺言書の無効を訴えて訴訟を起こし、同じく高裁まで持ちあがると、今度は逆転判決が出て長男の遺言書が無効とされました。最初の遺言書が毛筆によって書かれたものに対し、後の遺言書がボールペンで書かれたものであったこと、署名の一澤の「澤」の文字が後の遺言書では「沢」になっていたことなどの理由により、長男の提出した遺言書が偽物であるという審判が下されたのでした。
この事例のような偽の遺言書が混じりますと、遺言書そのものが絶対といえず、安全確実なものと言いきれなくなってしまいます。
遺言書が自筆証書遺言だと、このようなことが起きる可能性が高いものです。(公正証書遺言でも、本人の意思が曲げられたり誘導されたりして作成される場合が全く無いとは言えませんが)
「遺言書」があっても万全であるとはいえません。遺言書の作成を基本としながらも、生前において推定相続人に財産の承継に関して誰に何を相続させるかを具体的に伝えて、できるだけ遺言書の確実性を高めておくことが重要です。
生前中にご本人から相続に関する話があっても、法律上の効力はありませんが、推定相続人を集めて、財産をどう承継させるか、その理由は何なのかを話し、意志を表して推定相続人を納得させることが大切です。その努力が将来の紛争の予防に役立ちます。
遺言だけに頼らず、ぜひその意志を述べておかれることが大切です。