養子縁組は家の存続を考慮し必要な後継者をとるために用いられてきました。近年では子を育てたい、老後の面倒をみてもらいたいという、親のための養子縁組制度となり、さらには、恵まれない子を養育する福祉の点から養子を取る、子のための養子という考え方に拡がっています。
この養子縁組制度は養子養親の社会的な親子関係を結ぶという意志により役所への届出で成立します。この養子縁組には人数の制限がありません。
また、養子は養子になった日から、養親に対する相続権を持つことになりますが、併せて、実親に対しての権利も残り、双方の相続権を持ちます。
養子を取ることができるのは、自分より年齢が上でなければ、あるいは自分の尊属(父母、祖父母、叔父叔母等)でなければ、誰でもOKです。養親となるには成人(満20歳)に達していなければなりませんが、未成年でも結婚していれば養親になることができます。
また、養子となる者は年齢に制限がありませんが、未成年者であれば家庭裁判所の許可が必要です。さらにその未成年者が15歳未満であれば親権者(親権者がいなければ法定代理人)の承諾が必要となります。
ただし、自分の孫を養子とするような場合には未成年者でも家庭裁判所の許可は不要です。
また、配偶者のある者が養親となる場合、以前は配偶者と共に養親にならなければならなかったものですが、現在では配偶者の同意があれば単独で養親となれます。ただし、未成年者を養子とする場合には、配偶者とともに養親にならなければならないことになっています。
よくある養子縁組のパターン
養子縁組の相続税上の効果として、養子を1人とると基礎控除が600万円増加し、法定相続人が1人増すことで全体の累進税率が緩和され相続税の総額が減少します。また、生命保険金の500万円の非課税枠や、障害者や未成年者の控除額が増えます。
ただし、養子を取ることによる節税効果が大きいため、相続税法では法定相続人の数に関し養子の人数の規制を行っています。これはよく間違われることですが、民法上の養子の数を制限するものではなく、あくまでも相続税の計算においてのみ規制するものです。
(1)人数制限
相続税は法定相続人の数に加える養子の人数について次のような制限を設けています。
実子(子が亡くなっている場合の代襲相続人である孫も含めて)がいない場合には養子の数は2人まで、実子(子が亡くなっている場合の代襲相続人である孫も含めて)がいる場合には養子の数は1人だけ加算となっています。
ただし、この養子縁組が相続税の負担を不当に減少させるだけの目的であるとみなされる場合には、法定相続人の数に加えられませんのでご注意が必要です。
★実子がいない場合
★実子がいる場合
(2)養子の数が制限される内容
子の数の制限は次のような法定相続人の数に影響します。
①基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の計算
②相続税の総額の計算
③生命保険金や退職手当金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)の計算
上記の項目以外には養子の数に制限は設けられていません。例えば、未成年者控除や障害者控除あるいは相続税の2割加算においては適用除外となります(ただし、被相続人の直系卑属で養子となっている者(孫やひ孫)は除外されず2割加算の対象です)。
また、相続税以外でも不動産の相続登記に係る登録免許税や不動産取得税について相続人としての軽減措置の適用がされます。
被相続人が契約者で相続人が受取人である生命保険金については、法定相続人1人あたり500万円が非課税とされています(ただし、相続の放棄をした相続人は対象とされません)。
法定相続人が取得した生命保険金の合計金額が非課税金額以下であれば、全額が非課税財産となり相続税の課税対象とされません。また、合計金額が非課税金額を超えるのであれば、各法定相続人が取得した生命保険金の金額に比例して非課税金額を割り振り、その超える部分の金額が相続税の課税対象となる財産になります。
ただし、この法定相続人の数にも相続放棄した相続人は対象とされません。
これは推定相続人である子に金銭を贈与し、子がその贈与を受けた金銭で親を被保険者として生命保険金の加入をするものです。契約者及び受取人が子で被保険者が親という契約です。
契約者と受取人が同一の子となりますので、受取った保険金は所得税の一時所得扱いとなります。一時所得は、((収入金額-支出金額)÷2-50万円)という計算で課税所得を算出しますが、課税される所得が1/2以下になるため通常よりも少ない税額で済みます。
また、一般的に贈与に関して、子に金銭を贈与しても「贈与した金銭等を使って欲しくない」と考える贈与者が多いのですが、この保険料の資金の贈与の場合には贈与した金銭をそのまま保険料に充てますので自由に使われることなく、相続税対策の贈与と相続人の納税資金の確保との両方を兼ね備えています。
1年間(暦年)に人から金銭や物品その他の経済的利益を受けた場合に、その合計金額が110万円を超えますと贈与税が課税されます。
贈与税は贈与金額が大きくなれば贈与税率も高くなりますが、これは相続税の課税を逃れて贈与することを前提にしていますので、相続税より高い税率となっています。
平成27年1月1日以降の贈与から、贈与税の税率が2種類になるとともに税率が変わり、各々税額が次のようになります。
贈与額に対する贈与税の税額表(20歳以上の者がその直系尊属から贈与を受ける場合)
贈与額 | 贈与税 | 贈与額 | 贈与税 | 贈与額 | 贈与税 |
---|---|---|---|---|---|
150 | 4 | 350 | 26 | 1,000 | 117 |
200 | 9 | 400 | 33.5 | 2,000 | 585.5 |
250 | 14 | 450 | 41 | 3,000 | 1,035.5 |
300 | 19 | 500 | 48.5 | 5,000 | 2,054.5 |
(単位:万円)
贈与額に対する贈与税の税額表(上記以外の場合)
贈与額 | 贈与税 | 贈与額 | 贈与税 | 贈与額 | 贈与税 |
---|---|---|---|---|---|
150 | 4 | 350 | 26 | 1,000 | 231 |
200 | 9 | 400 | 33.5 | 2,000 | 695 |
250 | 14 | 450 | 43 | 3,000 | 1,195 |
300 | 19 | 500 | 53 | 5,000 | 2,289.5 |
(単位:万円)
(1)無税の利用
相続税が多少課せられるようであれば、110万円までの無税の贈与を利用します。1年間で110万円の贈与ですので、10年繰り返せば1,100万円ほど課税なしに財産が移転でき、相続税を節税できます。
(2)相続税よりも安い税率で贈与を利用
相続税が多額になる場合、110万円の無税の贈与ではなかなか財産が減りません。そのような場合には相続税の税率と比較して、それより低い贈与税の税率を利用して贈与します。
例えば、相続税の上限税率が40%(1人あたりの法定相続分の金額が1億円から3億円の間の税率)の場合であれば、贈与税率30%以下での税率で贈与を検討します。
相続や遺贈(遺言)で財産を受け取った者で相続開始の日の前日以前3年以内に被相続人から贈与を受けていた場合には、その贈与財産を相続財産に含めて相続税を計算し、算出された相続税から贈与税を控除して納付します(マイナスとなっても還付とはなりません)。
この3年以内の贈与加算は、相続又は遺贈により財産を受け取った方が対象とされますので、相続権のない孫や子の配偶者が遺言で財産を受け取らない限り、この贈与財産の持戻しの対象となりません。したがって、相続開始前3年以内の贈与を受けても贈与の効果を有することになります。
子の配偶者や孫は、贈与額の持戻し計算はされない。
金銭を贈与する場合に、贈与者の口座から受贈者の口座への振込みますと、お互いの口座に贈与の事実が残ります。さらに贈与の契約書を作成し、贈与税の申告書を提出されることで、贈与の事実が明確になります(必ずしも契約書や申告書を作らないといけないわけではありませんが、より贈与を明確にするために行います)。
不動産を贈与するのであれば、その不動産の持分を(例えば、持分10分の1とか)贈与します。
ただし、不動産の場合、同一の不動産を兄弟や家族などの多くの人に贈与しますと、共有者をたくさん作ってしまいますので、それを避け一人の者(もしくはその者の配偶者や子を含める程度)に贈与しておきましょう。ただし、不動産を贈与する場合には、不動産取得税や登録免許税等が課税されますのでご注意ください。
贈与とはあげる人ともらう人の双方の合意に基づく無償による契約です。当然のことながら、贈与を受けた者がその贈与の事実を把握しており、贈与を受けた後はもらった人(受贈者)が自己の責任で贈与を受けた物を所有していなければなりません。これらの要件が伴わっていなければ贈与と認められない可能性があります。
相続税の節税を図るために子や孫に金銭を贈与していても、子や孫名義の預貯金等の通帳を受贈者が所持せずに、贈与者本人が持ち続けていることがあります。尋ねてみれば、『受贈者である相手に贈与を伝えていない』とのことです。
これでは税務上、子や孫名義の借名預金として、贈与した本人の相続財産に織り込まれてしまいます。贈与となれば、必ず贈与を受けた者が通帳や印鑑を所持し、運用管理しなければなりません。
なぜ、このような結果になるかといいますと、実際に贈与する側が「贈与した金銭を勝手に使ってもらいたくない」という本音があるようです。でも、それでは贈与したことにはならないことはおわかりでしょう。
「相続時精算課税」の贈与とは年間110万円まで無税となる通常の贈与(これを「暦年課税」の贈与といいます)と異なり、累積で2,500万円まで無税で贈与できる制度として平成15年に新設された贈与です。
ただし、この贈与は、将来贈与した者が亡くなった際、その者の相続財産にこの贈与財産の累計額を加えて相続税を計算し、算出された相続税から受贈者に課された贈与税を控除して精算する贈与です。このとき相続税よりも贈与税の方が多ければ差額の税金は還付されます。
この贈与の場合の「贈与者」と「受贈者」の要件は次のとおりです。
この制度は、贈与を受ける者が選択して税務署に届け出ることにより認められ、その贈与者からの贈与が累積で2,500万円(特別控除)になるまでは無税です。2,500万円を超えれば、その超える部分の金額に対して、20%の税額を納税しますが、相続時にその贈与税を精算します。
この制度をいったん選択しますと、同一の贈与者から受ける贈与について、二度と暦年課税の贈与に戻ることができなくなりますので、この相続時精算課税の贈与を選択する場合には慎重な検討が必要です。
このケースの場合、4つの組合せがあり、各々で精算課税の選択が可能です。
平成27年及び28年の改正により、20歳以上の者がその父母または祖父母などの直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受け、翌年3月15日までにその住宅等を取得して居住の用に供している場合には、その贈与を受ける時期により、次に掲げる金額までの住宅取得等資金の贈与が非課税となります。
(イ)住宅等の取得時の消費税の税率が8%の場合
住宅用家屋の取得等に 係る契約の締結期間 | 省エネ又は耐震の良質な 住宅の非課税限度額 | 左記以外の住宅の 非課税限度額 |
---|---|---|
平成27年1月~ 平成27年12月 | 1,500万円 | 1,000万円 |
平成28年1月~ 平成32年3月 | 1,200万円 | 700万円 |
平成32年4月~ 平成33年3月 | 1,000万円 | 500万円 |
平成33年4月~ 平成33年12月 | 800万円 | 300万円 |
(ロ)住宅等の取得時の消費税の税率が10%の場合
住宅用家屋の取得等に 係る契約の締結期間 | 省エネ又は耐震の良質な 住宅の非課税限度額 | 左記以外の住宅の 非課税限度額 |
---|---|---|
平成31年4月~ 平成32年3月 | 3,000万円 | 2,500万円 |
平成32年4月~ 平成33年3月 | 1,500万円 | 1,000万円 |
平成33年4月~ 平成33年12月 | 1,500万円 | 700万円 |
注:暦年課税の贈与であれば、基礎控除額の110万円を加算して贈与することができます。また、この適用については受贈者に一定の所得金額の制限があります。
30歳未満の者の教育資金に充てるため、その者の直系尊属が金銭等を拠出して金融機関に信託した場合には受贈者一人当たり1,500万円(学校以外に支払われる金銭は500万円)までの金額に相当する部分について平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に拠出されるものに限り非課税とします。
※この「1,500万円までの教育資金に係る贈与」が平成31年3月まで延長となり、新たに留学渡航費や通学定期券代が教育資金に含まれます。
注:従来から、扶養義務者相互間での必要な都度の教育費の贈与は非課税ですが、一度に無税となる多額の贈与ができるメリットがあります(相続税の直前対策にピッタリ)。
20歳以上50歳未満の者が結婚・子育て等の資金に充てるため直系尊属が金銭等を拠出して金融機関等に信託等した場合に、1人当たり1,000万円(結婚に際して支出する費用については300万円を限度とする)まで非課税となる制度が平成27年4月から平成31年3月まで施行されます。
★20歳以上50歳未満までに係る次の費用
この制度は受贈者が50歳に達したとき、あるいは、信託財産の価額がゼロとなったときにおいて終了した場合に残額があれば、残額について贈与税が課税されます。
また、この信託の管理が終了するまでに贈与者が死亡したときは非課税金額を除いた残額については受贈者が相続または遺贈により取得したものとみなして相続税の対象となります。ただし、相続税の2割加算の対象とはされません。
管理法人は、不動産オーナーに集約される収入や税金を分散し、毎年の所得税や将来の相続税を節税する効果があります。
家族や親族で不動産管理法人を設立し、不動産オーナーの所有する不動産を管理又は所有させることにより、管理法人に一定の収入や所得を移転させます。一方、管理法人から家族や親族役員が給与を得ることで、結果的に不動産オーナーの所得の分散が図れ、所得税や相続税が節税されます。
(1)管理法人の形態
管理の形態には、「所有」と「借上げ」と「管理」の3種類があります。物件ごとに「所有」、「借上げ」、「管理」を選択し、組み合わせて管理法人の業務とします。
①所有・・・建物を法人が所有して、家賃収入を得て経費を負担するものです。
②借上げ(サブリーズ)…オーナーから不動産を借上げ、第3者に賃貸するものです。
③賃貸管理…オーナーの物件を管理し、管理手数料を撤収するものです。
管理法人の役員には不動産オーナーの家族が就任し、法人の利益をもとに役員の給与を設定します。不動産オーナーの収入や所得の一部が管理法人へ移行し、管理法人を通して、家族や親族等の役員給与となり、所得の移転が図るとともに節税が図られます。
所得税は累進課税で所得が大きくなればなるほど税額が増加します。その高額になりがちな不動産オーナーの所得を分散することにより、全体の税額が減少します。
また、役員の給与には給与所得控除がありますので、その控除分だけ所得が減少し節税につながります。
一方、相続税は不動産オーナーに帰属すべき所得が管理法人を経由して家族に移転することにより相続財産の増加を抑えます。
☆次の表は、不動産オーナーの所得の半分に値する賃貸物件を法人へ移転し、法人の役員が給与を得た場合に、もとのオーナーの所得100がオーナーの所得の50と役員の給与所得40の併せて90と所得が10減ることを示しています。
*管理法人を設立して、オーナーの所得(1,000万円)の半分に相当する部分(500万円)を法人に移転したと仮定した場合で、その500万円に相当する金額の役員給与をオーナー以外の役員が給与を得たとして計算しています。
(法人へ移転する所得と同額の給与を得て、その給与所得をそのまま課税所得として計算し比較しています。計算上、役員の所得も所得控除も「0」で計算しています。税額計算は課税所得に対する所得税及び住民税で計算しています。)
不動産を有効利用すれば相続税の節税につながります。
土地が有効利用されることにより、建物や土地の評価額が利用されていない状態に比べて減少するからです。
建物の建築資金が現金による場合には、その建物の評価額が現金の額に比べ随分低くなりますし、借入金で建築しても、その建物の評価額が借入金の額に比べ低くなります。
さらに、その敷地の評価額も従前が自用地(賃借人の権利のない土地)であれば、賃借人の利用権が土地に及び、土地の評価額が減少します。
一般的に借金をしないと相続税の節税にならないとよく言われますが、正しくは、その借入れた資金の運用先の評価額が低くならないと、相続税の節税にはつながりません。
(1)建物の評価
一般的に建物を新築した場合にはその建物の相続税評価額は自宅で約2分の1、賃貸物件で約3分の1になります(建築費の変動によって割合も前後します)。
これは建物の固定資産税評価額が建築費総額の半分程度とされていること、さらにその建物を賃貸すれば、その評価額の70%で評価されるため、そのような計算が成り立つのです。
(2)土地の評価
土地の評価は、その土地の所有者が建物を建築し賃貸した場合には、「貸家建付地」という評価になり、更地(自用地ともいいます。)価額に比べ、評価額が2割近く減少します。
3億円で賃貸物件を建築した場合、建物の評価額が約1億円になるため、借入金の3億円と比較してマイナスが2億円生じます。これにより相続財産の全体額が4億円から2億円に減少し、相続税額が7,700万円から1,800万円と大幅に減少します。