相続人間の遺産分割協議がまとまらず時間が経過しますと、次のような問題点がでできます。
遺産分割ができなければ、その間、相続人全員の共有となります。各相続人が法定相続分で共有することになりますが、分割協議が確定するまでの間、自己が持つ相続分については、第3者に売却したり、担保に供したりすることが可能です。
もし、自己の持ち分を第3者に売却すれば、他の相続人はその第3者との共有状態となり、面倒な状況になります。
そのようなことが生じないように適宜、遺産分割協議を行って、不動産の名義を変えておかなければなりません。
分割協議がまとまらなければ、被相続人の財産が凍結されたままになり、不動産を売却したり、預金を引き出して利用することができません。
相続税の納税資金や借入金の返済があれば、その原資に困ってしまいます。
遺産の分割ができず、期間が経過しますといろいろと経済的な損失をも被ることになります。
(1)10か月以内に協議がまとまらない場合
申告期限までに分割がまとまらなければ、基本的に物納や農地の納税猶予が受けられなくなり、納税を延納で納めるか、不動産を処分して納税せざるを得なくなります。
また、農地の納税猶予受けることができなければ宅地並みの評価となり、相応の相続税がかかってしまいます。
(2)3年以内に分割協議がまとまらない場合
「配偶者の税額軽減制度」と「小規模宅地の評価減制度」は、原則、申告期限から3年以内に限り適用されるものです。その期間を超えますとこれらの軽減制度の特例を放棄したことになり、無駄な税負担をすることになります。
相続税の課せられた相続人が相続財産であった不動産等を処分した場合には、その売却益に対する所得税や住民税が軽減されます(これを「相続税の取得費加算」といいます)。ただし、その適用は申告期限から3年以内の売却となっていますので、その期限を越えてしまいますと適用できなくなります。
期間が経過しますと、その間にいろいろな情報が相続人の耳に入り、相続人の判断に迷いを生じさせます。さらに、相続人に相続が起きて、死亡した相続人の相続人が当初の相続の分割協議に参加することになり、相続人が増えて手続きが複雑になってきます。
相続税を計算する場合に、相続人間の分割協議と係わる点がいくつかあります。その関係するものとして、3つほど挙げてみます。
配偶者がいる場合、将来、配偶者に係る相続税(「2次相続」といいます)の問題がありますので、2次相続に係る相続税も考えて今回の相続を検討すべきです。
2次相続に係る相続税を、配偶者の固有の財産も含めて見積もりし、1次相続2次相続トータルでの相続税の計算をします。1次相続2次相続合計で相続税が安くなるところの1次相続での配偶者の相続分が計算されますので、その数値を参考にして配偶者の相続分を決めることができます。
もちろん、相続人間でのまとまった協議を主体に考えますが、このような相続税の試算も参考にして、今回の配偶者の具体的な分割をお決めになられればよいかと思います。
「小規模宅地の評価減」の制度とは、被相続人等の所有する自宅または事業用の土地について、相続人の生活や事業を行う場所として基本的な財産であるところから、一定の軽減措置を設けています。
例えば、自宅の敷地についての評価減の制度では、配偶者が相続する場合や同居の相続人が相続し居住し続ける場合に、330㎡までの土地の評価額を80%減額することができます。
この制度を2次相続も考慮して、うまく利用することが望まれます。
土地を共有で分割する場合、持分で分割するときにはその敷地の評価は、一体で評価されますが、共有とせずに分筆を予定して分割するときには、その分筆後の状態で、別々の土地として評価することができます。
広大地でない限り、別々に評価する方が評価額が減少する可能性が高くなり、節税につながります。いずれ、土地を分ける予定であれば、分筆を考慮した分割を検討してみるべきでしょう。
以上のように、相続人の分割の考え方を基本としながらも、相続税を考慮して、分割を調整すると、相続税が変わってきます。
相続に関する専門家として弁護士、司法書士、税理士その他の専門家が登場します。
これらの専門家も、その業務が多岐にわたりますので、相続関連の業務をよく経験されていらっしゃる先生もあれば、そうでない先生もいらっしゃいます。
その相続をよく知っておられる先生とそうでない先生により、有利不利が生じます。
税理士は相続税の申告を手掛けますが、その際に、次のような点を押えるかどうかよって、相続税額に差が生じる可能性があります。
以下にその差が生じる部分を掲げてみます。
①評価の差
不動産等の評価を行う際に、どのように評価を行っていくかが、相続税額に差をもたらします。この点が税理士によって差が出やすい部分です。
土地の評価は、その形状により㎡あたりの単価が変わります。また、建築等の土地利用に関する制限や道路との関係によっても評価額が変わります。これらは、建築基準法等の知識や現地を調査したり、役所等へ足を運ぶことによってつかんでいくことができます。
単に住宅地図や図面だけで評価すればよいというわけではありません。
②2次相続や小規模や宅地の評価減の検討
配偶者がいらっしゃる場合は、配偶者が今回の相続でどれだけ相続すれば良いか、1次2次相続併せてどのくらいの相続税になるのかが見積りできます。。
また、小規模宅地の評価減の利用も、どこを誰がどのように相続すれば最も有利な評価減を得られるのか計算できます。
そのあたりの判断には税理士のアドバイスが必要です。
③預貯金等の資金の流れをチェックする
相続税の申告で税務上一番問題とされやすいのが、被相続人の金融資産です。(相続税申告のポイント「税務調査」の欄参照)
税務調査では、被相続人名義の金融資産で計上漏れがないかという点、さらに相続人等の名義で被相続人の所有とみなされるもの(いわゆる名義預金)がないかという点が重要です。
税務署は、過去の被相続人の申告の内容や金融機関での調査から、事前にある程度の調べを行った上で調査にきます。
申告の際に税理士にこの被相続人の金融資産の流れに問題がないかをよくみてもらうことをお勧めします。
④申告上の問題点を指摘する
税理士は、相続人から資料の提供を受け、相続人に質問を行い、申告書の作成を行っていきます。
その作成において、税理士が申告上問題となりそうなところを押えているか、その点を相続人に説明できているかが、相続の専門家としての税理士の責任と思われます。
税理士が10人いれば、10通りの相続税額が算出されます。
それだけ、相続税の申告は、被相続人の財産を自ら特定し、自ら評価し計算するところにおいて、その作成の具合に影響されます。
ということで、相続には、相続に強い税理士等の専門家が望まれます。
民法では、兄弟姉妹間の相続分は、同等となっています。
被相続人の意向がなければ、兄弟姉妹の中で相続分を変える権利はありません。被相続人の意向として有効なものが遺言です。
ただし、遺言その他の被相続人の意思表示がなければ、民法は、「同じ割合ですよ」と規定しています。法律は、「相続人間で合意すれば、相続人間で法定相続と異なった遺産分割をしてよい」と認めていますが、合意できなければ「法定相続だ」といっているのです。
ですから、相続人間でもめて調停や審判となったときは、法定相続が基本となります。
もし、相続人の中に法定相続分を超えて、財産を承継する権利を主張される相続人がいる場合には注意が必要です。
相続人の全員がOKしなければ、自らの法定相続分を超えて財産を相続することができないからです。
この点を踏まえて、各相続人は分割協議を進めなければなりません。
さらに分割協議をスタートさせるときは慎重に話を進めていかなくてはなりません。その最初の第一歩を、踏み誤れば取り返しがつかなくなります。
例えば、各相続人は次のような態度をないように気をつけましょう。
家族としてのきずなは財産よりも大切なものです。
お互いに分割協議は感情をコントロールして、全員が納得できるように話を進めていかなくてはなりません。相続は、財産を取得することと引き換えに、親族間の関係を失う危険性を含みます。自分の考えをストレートにぶつけるのではなく、他の相続人の気持ちを配慮して分割協議をスタートさせましょう。